HinT table 02

開催日時:2020年9月19日(土)20時-22時

場所:Zoom

参加メンバー(五十音順):上地里佳、大橋香奈、小島和子、神野真実、髙山伸夫、田中翔貴、鄭禹晨、西井彩、橋本隆史、ピッチャー・スパンタリダー、廣瀬花衣、松尾葉奈

記録:大橋香奈

恒例の「チェックイン(出席確認をかねて、会の冒頭で全員が一つの「お題」に答える)」からスタート。今回のお題は、小島さんからの提案で「ひと夏の思い出」。新型コロナウイルスの影響がやや落ち着いてきて、これまで数ヶ月間控えていた外出、遠出をしたという人が何人かいました。話題の「ワーケーション」を試してみたという話も。9月に大学や大学院の卒業を迎えた、免許を取得した、就職が決まったという人もいて、お祝いムードのひとときを過ごしました。

今回は、昨年度のHinTの活動の成果として参加メンバーが制作した映像作品のうち2作品の上映とディスカッション、HinTの運営を手伝ってくれていた廣瀬花衣ちゃんによる修士論文発表と質疑応答を行いました。

上映作品は以下の2作品。(各映像作品の詳細についてまとめられた作品ノートは、「東京プロジェクトスタディ ‘Home’ in Tokyo」(HinT)の冊子のPDFでご覧いただけます。以下は冊子からの画像転載です)

  • 鄭禹晨『home in Tokyo(未定)』

台湾出身の鄭さんが、同じく台湾出身で東京で暮らす友人のパンさんとの関わりを通して、「アイデンティティ」「文化」「家族」を考え、描いた作品です。東京にいるときは台湾を想い、台湾にいるときは東京を懐かしむ。二つの場所の、それぞれの音、風景、ことば。映像の中で、それらが絶妙に切り替わります。二つの場所で、その間で、現れて、揺れ動く’Home’観がおもしろいです。

  • 橋本隆史『お隣さん』


取り壊しが決まったアパートで暮らしていた橋本さんが、自分と同じようにやむをえず立ち退くことになったお隣さんの、引っ越しのプロセスを記録した作品です。物干し竿代わりに使っていた玄関先の柵に、洗濯物を干す際に、顔を合わせ、おしゃべりするようになったお隣さん。友人でもない、家族でも親戚でもないけど、生活空間の一部を共有している「お隣さん」という、古くてこじんまりしたアパートならではの関係性がとてもよく描かれていておもしろいです。また、暮らしなれている、気に入っている場所を、予期せぬやむをえない事情で離れなくてはならなくなることの意味について考えさせられます。

以上の2作品の上映&ディスカッションの後に、廣瀬花衣ちゃんによる修士論文の内容をベースにした発表と質疑応答を行いました。

  • 廣瀬花衣「全天球映像を用いた「ビジュアル・フィールドノート」の作成」
    論文要旨:
    本研究は岩手県盛岡市における「材木町よ市」内のベアレンビール店舗周辺を対象としたフィールドワークの過程で撮影した全天球映像記録の表現形式の確立と視聴を通して、調査者だけの目線だけではなく、多様な視点から現場を理解する事を目指す研究である。
    研究全体は以下の構成である。
    1)フィールドワークの実施(岩手県盛岡市材木町よ市のベアレンビール前にて)
    2)フィールドワークの振り返り
    3)ビジュアルフィールドノートの制作
    4)ビジュアルフィールドノートの視聴
    著者は岩手県盛岡市「材木町よ市」のベアレンビールを対象としたフィールドワ
    ークを約1 年半に渡って実施、全天球映像の特性を理解し、調査者だけの視点だけではなく非調査者の視点も付与されるビジュアル・フィールドノートという表現形式の提案をした。実践を通じ、非調査者を「経験の専門家」として調査に巻き込む事によって、材木町よ市ベアレンビール周辺の複層性、また調査者1 人だけでは気づく事ができなかったフィールドの一面を引き出す事ができた。さらに、テクノロジーが前提になったフィールドワークにおける新たなフィールドワーカー像を示した。結果として、「ビジュアルフィールドノート」の作成を通じ、全天球映像を使う事によって可能になる “ 脚注を付け続ける”、”終わらないフィールドワーク”の
    方法を示した。

花衣ちゃんの研究については、途中経過を共有してもらっていたので、最終的に修士論文をどのようにまとめたのかを、この機会に発表してもらえてとてもうれしかったです。アクションカメラ等の撮影・記録技術が進化するなか、フィールドワークのあり方はどのように変わっていくのか、あるいは変わらないのかについて、実践にもとづいて検討した内容はとても刺激的でした。私自身は特に、カメラを用いたフィールドワークをめぐる倫理的な問題に関心があり、全天球カメラによって記録されたデータの扱い方については今後も考えてみたいと思いました。

花衣ちゃんの研究内容については、日本デザイン学会の研究発表大会での原稿も公開されているので、そちらもぜひご覧ください。→https://www.jstage.jst.go.jp/article/jssd/67/0/67_216/_pdf/-char/ja